ツレ、車いすから発射!
週末ツレと一緒に街中に出かけました。目的は某電気店で格安SIMの契約をするためです。
車いすを押すようになって気づいたことですが、街中の歩道って表面に凹凸があって段差もあるから結構危ないのです。過去にツレは覚えているだけでも2度車いすから飛び出しています。
見出しの通りにこの日の晩、ツレは3度目の飛び出しをしてしまいました。
まず先に腹ごしらえをしようと思い、僕は携帯電話を片手にマップを見ながら甘味処を探していました。
本来ならナビをツレにやってもらったら良いのですが、彼女は不随意運動があって自分の意思とは無関係に手が震えてしまうので、手に持った携帯電話を落としてしまう可能性があるのです。
周囲を見渡しながら車いすを押していると車いすを押している僕のお腹に衝撃が!
車いすの前輪が歩道の段差にひっかかってしまったのです。
車いすは急停止してしまいました。
その瞬間ベルトを装着していなかったツレのみが車いすから発射したのです。
手を伸ばしてツレの上着を引っ張ったのですが時すでに遅し。目の前でツレがゆっくりと落下していったのでした。
「ああああっ!」
どさっ!
周囲から哀れむような悲鳴に近い声が聞こえ、その後は静寂に包まれました。
こんなときに孤独を感じます。ギャラリーたちの晒し者になった感覚です。
ツレは昔なつかしのドラゴンボールでサイバイマンにやられたときのヤムチャの様に倒れていました。
世の中には良い人がたくさんいる
「わっ!大丈夫!頭打ってない!?ごめん!!」
一瞬の静寂後ぼくは急いでツレのもとに駆け寄りました。
正直にいうと周りのギャラリーの目を気にしていなかったと言えば嘘になります。はたから見ると彼女を車いすから落としたひどいヤローですからね。
だから、彼女のことを気遣う彼氏をあざとく演じるという、非常事態になってまで人の目を気にして良い格好をしたいという性質を発揮したのでした。
さっさとツレを車いすに乗せて直ちにこの場から去りたい気持ちで手を伸ばすと、この場にカップルが寄ってきました。
「大丈夫ですか?何かできることがありますか?」
街に出て車いすを押していると、多くの人たちが助けてくれます。それは老若男女問わず。
階段を登る時に階下に車いすを置いてツレと2人で登っていると、必ず「手伝いましょうか?」と声をかけてくれる人が現れます。そして車いすを階上まで持ち上げるのを手伝ってくれるのです。
お店の出入り口を通過する時は必ず扉を手で押さえてくれる人もいます。エレベーターなどでは多くの人が僕らの出入りを優先してくれるのです。
公共の場で見ず知らずの他人に声をかけることに、日本人は抵抗を覚えると思います。それなのに声をかけてくれるのです。
今回も見ず知らずの若者に助けてもらいました。
彼と僕でツレの両脇を抱えて車いすに乗せました。
ツレ「手伝ってくれたから起き上がるの楽だったね〜(笑)」
俺にはできないこと
しばらく無言が続きました。和菓子が食べたいと思い甘味処を探していたのですが、そんなことはどうでも良くなっていました。
僕「ごめんね・・大丈夫?」
ツレ「なんで?大丈夫よ!」
僕「頭打ってない?」
ツレ「大丈夫」
無理しているわけでもなくこの後もツレはいつもの明るいままでした。
僕ならきっと「もう!もっと気をつけてや!!」と文句のひとつでも言っていたと思います。
不機嫌になることもなく、怒ることもなく最後までいつものツレのままでした。そして僕のせいにしませんでした。
付き合い初めて10年以上経ちました。まだ僕は揺らぎっぱなしですが、ときおり見せる彼女の内面の素晴らしさのお陰でこの後の苦難も乗り越えていけるような気がします。そんな夜でした。